アマチュア読者の備忘録

本が好きです。兵庫県神戸市で開催されている「なごやか読書会」によく参加しています。https://kobe-nagoyaka.wixsite.com/book

柳宗悦『手仕事の日本』

 

手仕事の日本 (岩波文庫)

手仕事の日本 (岩波文庫)

 

 

部屋の周りを見渡すと、手作りの品物がほとんどない事に気付いた。これは産業革命以後の大量生産がもたらした遺産なのか、それとも堕落した私生活の結果なのか。観察すればするほど無味乾燥に見える。食器、デジタル機器、家具、ほとんどが深い思い入れもなく、すぐに代替可能な品物ばかりである。

 

かつての日本には家内で手仕事をすることで生計を立てる人々が数多くいた。彼らが生み出す品物は同じものがなく、長期間の使用に耐え、何よりも魂がこもっていたのではないか。それは損得勘定を抜きにした良いものをつくろうとする気質が伝統として生きていたからである。

 

本書は著者がおよそ20年に渡って全国の民蓺品を見て回り、地域ごとの手仕事の盛衰や特徴をまとめた民蓺品案内書である。各地の手仕事を深く知るには、その土地の地理的特徴や歴史的背景を理解しなければならない。本書を読みながら、日本各地の地理や伝統、生活について全然わかっていなかったのだと愕然とした。世間はグローバル化だ、英語だと喧しく騒ぎたてるが、世界中のルールが画一化される前に、母国の独自性について理解し、守るべきものを守り抜くことに注力しなければならないのではないか。適当に新聞を読み、テレビのニュースを見て朝鮮の批判を知ったような口で語るよりも、豊臣秀吉の時代に陶工を日本に連れてきたことが有田焼をはじめとする日本の焼物の発展に大きく寄与した事を知って、「まぁまぁ仲良くしようじゃないか。」と考える方が日本的ではないだろうか。(別に朝鮮に強い思い入れがある訳ではない。)

 

本書に限らず、著者は伝統とは古臭いものではなく、創造と発展を繰り返して成長させなければならないと言っている。伝統が途絶えれば、技術やノウハウの継承は頓挫し、それを元に戻すことは困難を極める。そのような現象は日本中で茶飯事であり、このような現状だからこそ、本書を読むことは日本のライフスタイルや生活の中で何気なく手に取る道具について、立ち止まって考える貴重な機会を与えてくれるのである。

 

 

民藝とは何か (講談社学術文庫)

民藝とは何か (講談社学術文庫)