アマチュア読者の備忘録

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藤原辰史 『給食の歴史』

 

給食の歴史 (岩波新書)

給食の歴史 (岩波新書)

 

 学生の頃の給食といえば、出てきた料理が美味しいか美味しくないかという二択しか思い浮かばなかった記憶がある。美味しければ、食が進まない他の生徒から追加でもらい受け、美味しくなければ、残してしまうか鼻をつまんで飲みこんでしまうかしてきた。年齢を重ねると、過去を振り返り、あれは美味しかった、あれは食べ物じゃないとか話して盛り上がる人は多いのではないだろうか。

本書はそんな思い出のある給食を、歴史の観点から研究している。近世にも藩校や私塾で昼食を無償で提供した記録が残っているが、日本の給食普及が本格化したのは近代に入って公布された小学校令によって、それまで有償だった授業料が無償化され、義務教育無償制になったことと関係している。義務教育が無償になったことで就学者が増加し、それに家庭の経済力が追いつかないギャップを給食が埋め合わせることになる。この流れは、イギリスやドイツ、フランス、アメリカと類似している。

給食は貧困だけでなく、災害や教育にも関わりがある。1923年の関東大震災で、被災者は食べられそうなものを見つけたり、炊き出しに並んだりして飢えをしのいだという。炊き出しの人材不足を補うべく、女子大生を中心に国立栄養学研究所で講義を受け、現場で給食を作るという体制が整えられた。フランスやチェコスロバキアからも視察者が訪れ、それまで後進だった日本の給食事業に一目置くほどになった。また、給食は家庭から離れて他の学生と同じ食事を摂ることで平等な空間が生まれ、バランスの良い食事によって偏食が矯正されることにもつながる。栄養のある食事によって健康体になり、勉強にも集中できるのではないだろうか。

もちろん、給食にも問題がないわけではない。戦後、アメリカから大量に輸入した脱脂粉乳や小麦を使った食事が給食として提供されてきた。それまで米飯が主流だった日本の食事も、給食が子供の味覚を変え、現在の食文化に影響を与えていることは間違いない。脱脂粉乳は牛乳に変わり、パンに使われることが主流だった小麦はラーメンやパスタ、ファーストフードにも姿を変えている。多様性がひろがり、さまざまな味が楽しめるようになった半面、給食の栄養バランスに偏りが出ている学校もあるようだ。学習に資金を集中させ、給食にしわ寄せが来てしまう状況が多いという。新型コロナウイルスの影響で、学校教育のあり方が取り上げられているが、給食を学習にどのように結びつけるかも大切な観点だろう。給食は歴史に登場して以来、当事者たちの創意工夫と奮闘によって進歩してきた。これからの世界をつくっていく子供たちのために、給食の果たす役割は非常に大きい。