マティアス・ゲルツァー 『ローマ政治家伝I カエサル』
ユリウス・カエサル(英語読みではジュリアス・シーザー)は紀元前100年7月13日に生まれ、紀元前44年3月15日にマルクス・ブルータスら側近によって暗殺された古代ローマの偉大な政治家である。
これだけ知っても何もおもしろくない。彼がどのような時代に生まれ、困難をともなう数多くの事業をいかにして成し遂げたのか。彼がローマ社会の中心に登りつめていくに従って、周囲の環境はどう変化していき、彼に影響を与えたのか。ユリウス・カエサルという人物についての知識が増えるほど、彼に対する魅力は高まる。もちろん彼の天文学的な借金をものともしない豪胆さや、「ガリア戦記」に代表される簡潔な文体にして読者を惹きつける文章構成を含めて。
本書は第一次世界大戦後に執筆されたといわれるカエサルの伝記であり、研究者も精読するほどの古典的な作品である。関連資料の徹底的な考察から得られる事実が時系列で構成されており、カエサルの歩んだ人生を順を追って辿ることができる。当時のローマの政治体制や貴族と市民の関係など、予備知識があることが望ましいが、どのような立場であっても一行ずつ読み進めることが求められるだろう。
本書はカエサルの伝記であるが、著者はカエサルだけでなく、彼と同時代に注目を集めたポンペイウスとキケロの伝記も出版している。3人の伝記を併読することで、なぜカエサルが現代においても圧倒的な人気を博しているのかが浮き彫りとなるだろう。
本書は学術的な書物であるため、カエサルについてよく知らない読者には食指が動かないかもしれない。ローマ史については塩野七生の「ローマ人の物語」が非常におもしろい。ローマの通史だが、文学的表現を交えて書かれており、カエサルに焦点を当てた本もある。事実と塩野氏の主観が明確に識別できるようになっているだけでなく、素人にもわかるように丁寧に説明がなされているところが素晴らしい。
ローマ人の物語〈8〉ユリウス・カエサル ルビコン以前(上) (新潮文庫)
- 作者: 塩野七生
- 出版社/メーカー: 新潮社
- 発売日: 2004/08/30
- メディア: 文庫
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