アマチュア読者の備忘録

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ギヨーム・ド・ベルティエ・ド・ソヴィニー 『フランス史』

 

フランス史 (講談社選書メチエ)

フランス史 (講談社選書メチエ)

 

 日本人が思い浮かべるフランスの歴史といえば、フランス革命ジャンヌ・ダルク宗教改革、あるいは第二次大戦中のヴィシー政権やドゴール政権あたりかもしれない。本書はフランス人の歴史家である著者が一冊で通読可能なことを目指して書かれたフランス史である。

フランスと呼ばれる国が歴史の舞台に現われるのは、ローマ帝国の時代である。当時はゴール(ガリア)と呼ばれ、長い時間を経てフランキア、つまりフランク族の国とみなされるようになる。その後、国家フランスの歴史が始まるのはシャルルマーニュの帝国が843年に分割されてからであるが、本書は国家となる前の国とその地に住む人の歴史も考慮し、紀元前2万年ごろと推定されるラスコーの洞窟壁画が残る南フランスの河川流域地帯からはじまり、1996年のフランス大統領フランソワ・ミッテランの死までを描く。

素人が読むに堪えない専門用語が飛び交うことなく、わかりやすい言葉で表現されており、フランスの歴史になじみのない人でも内容を理解できる(少なくともわかった気にさせてくれる)一冊である。著者の文体と翻訳者が生んだ賜物である。600ページ以上ある大著だが、ページを繰る手は止まらず、気づけば読み終わっていた。

日本の歴史が朝鮮や中国とのつながりを抜きにして語れないように、フランスという国・国家の歴史は陸続きの隣国や周辺のヨーロッパ諸国との度重なる外交や戦争を抜きにしては語れない。たとえば15世紀に現われた国民的な抵抗運動のシンボルであるジャンヌ・ダルクや、19世紀に皇帝ナポレオンが活躍していたとき、フランスとそれをとりまく強国がどのような関係を構築していたのかがわかると、その人物像は拡がり、深まりもする。

歴史は繰り返すというが、これは日本人の歴史に限ったことではない。「一見したところの新しさとは、多くの場合、ふたたび見いだされた過去にすぎない」という著者の言葉は、本書を読めば腑に落ちるであろう。