アマチュア読者の備忘録

本が好きです。兵庫県神戸市で開催されている「なごやか読書会」によく参加しています。https://kobe-nagoyaka.wixsite.com/book

佐藤健太郎 『世界史を変えた新素材』

世界史を変えた新素材 (新潮選書)

世界史を変えた新素材 (新潮選書)

 

 私たちは日々の生活の中でモノに囲まれている。デジタルな世界が侵食しつつあるが、実体をともなう素材がなければ生きていくことはできない。人間が文明社会を築き上げてきた数千年のあいだ、歴史に残る新発見や革新的技術によって、われわれは新たな素材を手に入れ、世の中を変えてきた。

本書はサイエンスライターである著者が、世に大きな変化を与えてきた材料の中から12種類を選び、それらが歴史をどのように変え、人々を魅了したのかを紹介する。金、陶磁器、コラーゲン、鉄、紙など現代では気にも留めない素材によって、人間の生活がいかに豊かで便利になったかは本書を読めば明らかになるだろう。

化学や歴史に興味がある人はおもしろく読めるのはもちろん、化学になじみがない人にも理解できるように難しい化学式を使うことなく、材料の登場や当時の歴史的背景、関連知識を交えて書かれている。たとえば、近代的なサッカーが生まれたのは1863年のことだが、この時代には良質のゴムが普及し、ゴム製ボールが大量生産可能になったことにより統一的なルールで大規模な球技大会が可能になり、競技の普及と発展を促した。ゴムがヨーロッパにもたらされたのはコロンブスが活躍した15世紀のことだが、その当時は冬には固くなり、夏には溶けてベタベタになる代物だった。扱いやすいゴムが開発されるようになってはじめて、多くの人がゴムのボールを使ってサッカーを楽しめるようになったのだ。

材料という言葉は、「物質のうち、人間の生活に直接役立つもの」と定義されている。これからは人間だけでなく、AIが材料を創る時代が来るという。どのようなイノベーションが新材料を生むのかを考えるうえでも、歴史を大きく変えた材料について知ることは意味のあることだろう。